動的平衡の話

倉庫管理でよく使われる言葉に先入れ先出しというのがあります。先入れ先出しは、先に入荷した商品(古い商品)を先に出すと言うことです。たとえば、販売時に倉庫から品出しする時に、古い商品から出して使用すると言うことです。もちろん、先入れ後出しという管理方法もあります。

平衡というのは、釣り合いが取れていて見た目上は静止あるいは停止しているような状態を表しています。化学平衡といえば化学反応が進む方向と戻る方向が同じ早さになれば平衡が成り立っているということになります。

ところで話は変わりますが、あなたの体のどこかに余分な脂肪はありませんか? 万が一に備えているのですよという声が聞こえてきます。脂肪が体内の倉庫に貯蔵されているとしたら、先に説明した倉庫管理の手法がこの体内の脂肪にも当てはまるのかどうかが今日の話です。

1938年、ルドルフ・シェーンハイマーという科学者がネズミを使って食事で与えたタンパク質がどのように体内に吸収されるのか実験をしました。タンパク質にはアミノ基という窒素でできた成分が含まれています。このアミノ基の窒素に重窒素という窒素の同位体でできたタンパク質を餌として成熟したネズミに三日間与えました。

科学者は仮説を証明するために実験をします。研究を正当に評価してもらうためには、実験の方法が理論的に正しくなければなりません。しかし、実験結果の解釈は、自分の立てた仮説との対比ということになります。ルドルフ・シェーンハイマーの仮説は、成熟ネズミはそれ以上大きくなる必要はないので、餌は生命維持のためのエネルギー源となって燃やされ、重窒素はすべて尿中に出現すると予想したのです。

実験結果は、餌の重窒素分は尿および糞中に排泄されたのが投与量の29.6%だけで、重窒素の半分以上の56.5%が身体を構成するタンパク質の中に取り込まれていたのです。取り込み場所は、体のあらゆる部位に分散されていましたが、特に取り込み率が高いのは腸壁、腎臓、脾臓、肝臓などの臓器、血清(血液中のタンパク質)でした。結果は鮮やかに仮説を裏切っていました。

餌として与えられた重窒素アミノ酸は、吸収されると瞬く間に、アミノ酸より下位の分子レベルに分断され、改めて多数のアミノ酸が一から紡ぎ合わされて新たにタンパク質が組み上げられていることを意味していました。さらに重要なことは、体重が増加していないことで、新たに作り出されたタンパク質と同じ量のタンパク質が恐ろしく速い速度で、バラバラのアミノ酸に分解され、そして体外に捨て去られているということでした。ルドルフ・シェーンハイマーの結論は、餌から与えた重窒素アミノ酸は分解されつつ再構成されて、ネズミの身体の中をまさにくまなく通り過ぎていくということだった。

その後、脂肪についても同様の実験が行われました。貯蔵物と考えられていた体脂肪でさえもダイナミックな「流れ」の中にあったのです。それまでは、脂肪組織は余分のエネルギーを貯蔵する倉庫であると見なされており、大量の仕入れがあったときはそこに蓄え、不足すれば搬出すると考えられていましたが、実験結果は、脂肪もまた貯蔵庫の外で、需要と供給のバランスがとれているときでも、内部の在庫品は運び出され、一方で新しい品物を運び入れられている。脂肪組織は驚くべき速さで、その中身を入替ながら、見かけ上、ためている風をよそおっているのです。

シェーンハイマーは、この結果を「身体構成成分の動的な状態」と呼びました。そして、生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿であると結論づけました。この生体での動的平衡は、今では新陳代謝として誰もが知識として知っていますが、当時は新しい生命観としてセンセ-ショナルを巻き起こしました。

それ以来77年、組織体が氾濫する世の中になりましたが、シェーンハイマーの「動的平衡」が組織の重要な要素であると拡張解釈されています。組織の中にいる者は「動的平衡」の構成要因であるということになるのでしょう。
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